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2012 05,04 13:43 |
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この映画がスクリーンで観られるなんて、実現してくれた全ての関係者に敬意を表したい。戦争へ突き進もうとする日本とナチス時代のドイツとの合作であり、これからのことを示唆する国策映画的な描写を多々ある。現在の日本人感からすると、そんなことはしないということを感じるかもしれない。それは、ドイツ語タイトルである「Die Tochter des Samurai」のように武士的精神とそれを健気に受け止める女性の姿だ。 16歳の原節子は、初々しいなかに美しさの片鱗を見せてはいる。ただ演技はまだまだだし、後年の「晩春」や「東京物語」の方が遥かに美しい。 この映画の主役は、失われた日本の美しい風景だろう。冒頭の富士山の場面から溜め息が出る。僕の住むこの国は、かつてこれほど美しい風景にあふれていたのだと愕然とする。 原節子の伝記に、この撮影の時に日本中を訪れ、映画の宣伝のためにドイツに行った際の記述があったことを思い出した。読み直してみようかな。 戦前の美しい日本の風景を見るだけでも、この映画を観る価値はある。ただ、厳島神社の前に住みながら裏に阿蘇のような活火山、家の中は京都か鎌倉で、東京には阪神電車が走るなど、ちょっとめちゃくちゃではある。 建築好きにたまらないのは、東京のEUROPA HOTELというのが甲子園ホテルでロケされていること。これには、驚いたと同時に嬉しくなっちゃった。 そしてクライマックスは、山岳映画というジャンルをドイツで切り開いたアーノルド・ファンクだけに、噴煙が吹き荒れる断崖の火山の中を、どうやって撮影したの?とこれまた驚愕のシーンが展開される。おまけに円谷英二の特撮付き! 音楽は、山田耕筰! 原の父親役に早川雪舟! いやはや凄すぎる。 共同監督に伊丹万作の名も・・・。 開戦前夜の不穏な時代だったけど、日本人の美意識は、この頃の方が美しかったと思うなあ。 ストーリーは、栗3つだけど、日本中の美しい風景の記録として永遠に残して欲しい一作だ。 東京都写真美術館ホールにて。 東京は5月6日までの上映だけど、これから日本各地で上映される(大阪、神戸、名古屋は上映中)予定。 新しき土 http://hara-eiga.com/index.html
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2012 05,02 11:08 |
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スパイ映画というより重厚な人間ドラマ。全て静かに静かに進み、アクションやサスペンスの盛り上がりは無い。誰が二重スパイということよりも、全ての登場人物が孤独で、自己を本性を隠して生きなければならない中で、それでも誰かを愛してしまう人間の性がかえって痛々しい。 映画は、とりあえず二重スパイの真犯人を見つけ出しそれを示しているが、それは正直どうでもいい。登場人物の表情、回想シーン、写真などに、「何故、そうなったか」のヒントが多数隠されている。国のためや、組織のためでなく、実は愛する人間のために行動していてたスパイの悲哀を僕は感じた。この映画が何を言いたいかは、観客にゆだねられていると思う。 ゲイリー・オールドマンの静かで抑えた演技は、秀逸。全てを達観しているようでどこか寂しさと憂いを漂わせている。 スパイ映画を期待していくと肩透かしかも。裏に隠れている人間ドラマが見応えある。 栗4つ。TOHOシネマズシャンテ スクリーン1にて。 裏切りのサーカス http://uragiri.gaga.ne.jp/
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2012 03,11 14:01 |
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今年必見の一本。饒舌かつ雄弁な肉体表現に圧倒される。 もともとピナ・バウシュ主演で撮影に入るはずが、クランクイン直前にピナが急逝したため、その伝承者たちの出演のみとなった。ピナは、映像で出演しているが・・・。 最近のハリウッド映画を観ていると3Dにする理由がよく分からないないが、この作品には唸らされた。3Dは、飛び出してくるというより奥行きが感じられる。それを上手に利用して、画面がレイアーに分かれている。前面、センター、奥とそれぞにダンサーが配され、観客は実際の生の舞台を観ているような錯覚を覚える。映画は、劇場と違ってアップで見られるので、踊り手が目の前で舞う、まるで特等席で鑑賞しているようだ。この映像表現で日本の能を観たくなった。 オープニングの「春の祭典」で心を鷲掴みにされ、圧倒される。これほどまでに音楽と肉体表現が調和するのかと驚愕させられる。その動きは、言葉が無いのに饒舌で、世界標準言語のようだ。 3D映像だと画面が暗くなるのが残念だが、斬新な映像表現と、そこで繰り広げられる圧巻のダンスシーンに脳みそが頭の中でクルクル回転し、心臓が体中を走り回り、血液が猛スピードで駆け巡るかのように大興奮した。 ピナがいない喪失感はある。ただピナの精神と魂は、教え子たちに伝承されている。 映画ならではの表現に溢れ、映画館でこそ観るべきの希有なドキュメンタリー。 ミュージカル映画としても超一級。栗4つ。 新宿バルト9 スクリーン5にて。
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2012 03,03 17:42 |
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これは、良い意味で期待を裏切る素晴らしい作品だった。アカデミー賞が技術部門のみの受賞になったのが残念だね。 予告で観た感じでは、ありきたりの冒険ファンタジーに突入かと思ったけど、実は映画ファンに捧げた美しいオマージュだった。映画好きにはたまらない展開だ。その一方で、楽しい冒険活劇を期待していくとちょっと肩透かしかも。アカデミー賞に11部門もノミネートされたのに、米国では1億ドルを超えるヒット作になっていないのはそれが理由か。タイトルから子供向けのように思われてしまいがちだが、大人のファンタジーだ。 玩具屋のおじさんが何者か分かっていく過程が面白い。また、図書館での映画の歴史をひも解く場面の美しさはにはジーンときてしまう。 ラストがもうちょっと余韻が残る形で終わればもっと素晴らしかったのになあ。 突拍子もない俳優サシャ・バロン・コーエンがとってもいい味出している。 映画ファンのための美しいファンタジー、栗4つ。 3Dもとても効果的に使われていた。 ユナイテッドシネマ豊洲スクリーン1にて。
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2012 02,12 23:20 |
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レッド・ツェッペリンのカバー「移民の歌」にのったメタル・リキッドなオープニングが最高にクールだ。これは、すごい映画と期待させる。 確かに2時間40分、飽きないんだけど、展開は意外と普通だ。それでもフィンチャーらしい映像と猟奇シーンは健在。 残念なのは、「ゾディアック」にあった緊迫感とドキドキ感がないこと。圧倒的演技を見せるルーニー・マーラが超人すぎるのがその理由だろう。また、キャスティングから、映画ファンなら簡単に犯人が誰か分かってしまう。おまけにラストのどんでん返しも予想の範囲内だ。 栗3つ。フィンチャーならもっとできると期待してしまう。 ユナイテッドシネマ豊洲スクリーン10にて。 劇場前のカフェ Breathが期間限定でパンナム・カフェになっていた。飲み物のコースターが、パンナムロゴになっていた。ドラマ「パンナム」のタイアップみたい。貴重なパンナム・グッズが展示ケースにたくさん展示されていた。あれ、販売してくれないかなあ? |
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2012 02,05 15:23 |
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クリント・イーストウッド監督の新作。初代FBI長官の人生を描く。主役のレオナルド・ディカプリオは、本当にいろんな役をこなすなあ。演技力あるのに、アカデミー賞は縁遠いんだよねえ。
盗聴や諜報活動で有力者のスキャンダルを牛耳り、大統領をも影で脅していたという曲者。当然、敵も多いし、危ない橋を渡っている。そのはずのに映画ではいとも簡単に行え、緊迫感も緊張感もない。同監督の『チェンジリング』にあったあのスリリングな演出は見る影も無い。 エドガーの秘書の関係、エドガーと副長官の関係、エドガーと大統領、上院議員との駆け引き、どれも中途半端だ。 多くの興味深いネタに溢れているのにもったいなあ。もっと鋭く突っ込んで欲しかった。 悪名高いエドガーだが、科学調査の導入や州を超えた連邦捜査のFBI を作った功績は大きい。 それにしても人間の人格形成に母親の存在は、大きいなと感じた。 せっかくの題材が緊迫感のない中途半端なドラマになってしまい残念きわまりない。 栗3つ。TOHOシネマズ六本木ヒルズにて。 |
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2012 01,03 12:00 |
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コメディ映画としても超一級。語り草になっている有名なボクシングのシーンは、抱腹絶倒だ。何度観ても面白い。スラップスティックな喜劇の中に、切ないけどちょっとロマンチックなラブ・ストーリーも繰り広げられる。盲目の花売り娘に恋する主人公は、一途な健気さの中に金持ちの虚像を纏った虚栄心でしか親しくなれない。 そして、映画史上もっとも切なく、絶望的で残酷でありながらも人間の優しさへの希望を託したラストシーンは、何度観ても鳥肌が立つ。声の無い台詞と二人の表情がいつまでも胸に突き刺さる。 栗5つ。映画が成し遂げた美しい奇跡の一編。 有楽町スバル座にて。
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2011 12,24 13:41 |
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お馴染みのテーマ曲にのり、オープニング・クレジットがあるのはいいね。最近のハリウッド大作は、オープニング・クレジットが無いからねえ。 「ボーン・アイデンティティー」シリーズでCGを使わない原点回帰のアクション映画がやっぱり面白いということで、ハリウッド映画がまた昔の形に戻ってきている。体を使ったバトルやカーチェイスなどが満載だ。ただ、「ボーン」シリーズの度迫力カーチェイスに比べると正直見劣りする。 それでもトム・クルーズは、がんばっている。本人自ら挑戦した世界最高層のビルでのスタント、砂嵐の中の追跡劇などドバイでのシーンは見所満載だ。 ただ、ストーリーには一作目のようなひねりが無い。裏切りや複雑な人間関係も無く、また緊張感も乏しい。 硬派に徹した「ボーン」に対して、コメディー・センスも加味したちょっと軟派なところが多くの人に受け入れられるだろう。 栗3つ。単純に楽しめる娯楽作。 TOHOシネマズ日劇1にて。 |
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2011 12,19 22:44 |
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時代の雰囲気があまり出ていなく、収容所の場面に緊張感も恐怖も無い。ナチスと交わる場面もびっくりするくらい淡々としている。 あんな過去を持っていれば、その後も幸せに生きられるはずはないというのはひしひしと伝わる。 主演のクリスティン・スコット・トーマスは、相変わらず上手だが、それ以外の俳優がそれほどでもない。 僕は、日本版の予告編を観ていなかったけど、今Youtubeで観てみたら随分と物語の急所となるべき場面がこれでもかと流れている。予告を観た人には、それ以上のものは無いと思う。 サラとその弟の顛末が分かるまでは、それなりに見せるが、それが分かって以降、物語の中心が現代になってからは、いたって普通の展開。ラストも予想通り、えっ、そんな陳腐な終わり方なの?って感じ。そして、それを感動的にするだけの演技と演出力が無い。 先日、「ジュリア」を観ただけに、胸に刺さるものが無いなあ。 もっと、すごいものを期待していたよ。期待値を超えず、普通の出来。栗3つ。 銀座テアトルシネマにて。いや、そんなにひどい映画じゃないよ。過度の期待をしなければ。 「ひまわり」のリバイバルに行けば良かった。そっちで思いっきり泣きたい。 ネタがバレバレの日本版予告編ではなく、海外版の方がいいよ。 |
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2011 12,16 23:58 |
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細かい所はいろいろと不満が残るが、今年のアメリカ映画では恐らく最高の一本。久しぶりにブラッド・ピットがすげえなと思った。
野球のことは、全く分からないが、それでも奇跡の20連勝の場面は感動的だ。 ヤンキースなど金持ちチームがその資金力を武器にせっかく育てた有望な選手をどんどん引き抜いてしまい、貧乏チームはいつも優勝できない。それを打破するために取り入れた統計と数学によるセイバーメトリクスを用いて弱小チームであるオークランド・アスレチックスを強靭なチームに変えていった実話に基づく物語だ。 野球のことを知らなくても映画はものすごく面白い。チームを変えるために、固陋で保守的なスタッフをズタズタと切っていくその様は、見てていて心地良い。これは、スポーツだけでなく、ビジネスでも言える。これまでのやり方にこだわって、そこから抜け出せない組織は死ぬ。 ブラッド・ピットは、最高の演技を見せる。これでアカデミー賞が取れなきゃ、可哀想だ。補佐役のジョナ・ヒルもいい味を出している。ピット演じる主人公の悲哀は、本当に良く描かれている。 一方でもう一つの主役であるはずの選手陣は、パッとしない。トレードの駒として人間のように扱われない彼らの人生にも何人かスポットが当たれば、映画としてより深みが出たと思う。 それにしてもプロ・スポーツは、もはやスポーツでなくビジネスなんだと改めて感じる。セイバーメトリクス手法は、他球団も真似しだし、ボストン・レッドソックスは優勝してしまう。 映画は、チームの絶頂期を描いているが、現在のアスレチックスは低迷期らしい。一度は、革命的だった手法もいつのまにか平凡なものになり、次の変革が求められるのかもしれない。 この手法が良い悪いは別として、組織は変革しないと死ぬことを教えてくれるとてもいい映画だ。 栗4つ。ユナイテッドシネマ豊洲 スクリーン5にて。 |
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