2006 10,12 21:56 |
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今、このドキュメンタリー映画の余韻に浸っている。
このドキュメンタリーには、歴史的な大事件もなければ、イデオロギーの衝突もない。憎悪もなければ衝撃的な出来事も無い。 あるのは90歳を迎えたばあちゃんとその息子(この映画の監督の父)との対話と日常である。たったひとつ大きな出来事と言えば、50年住んだ家を取り壊すこと。 冒 頭、日常の生きる場である「家」の描写、いつもの朝食がある。それから母と子で家の荷物を片付けていき、だんだんと「家」が広くなり、広くなる毎に生活の 臭いが消えていく。本当にこの家は、片付くのだろうかとあとからあとから出てくる思い出の品。およそ日本の歴史の動静には関係がない家族の歴史が鮮やかに 蘇る。 母と子の会話は、なんとも優しく温かい。何も事件が起こらないただの日常がドラマチックに感じる。まるで小津安二郎の映画を観ているようだ。 最近のドキュメンタリーは、ビデオで撮影する向きもあるが、この作品は、フィルムだ。時折静岡の自然や小動物の営みが挿入されるが、それがまるで絵画のように美しい。素晴らしいカメラ・アングル、郷愁を誘う映像が胸に染みる。 登場人物は、みな優しく、楽しく、明るい。そんな中でも、常に「死」というものが側にいる。死すべき運命の人間の「生」がこんなにも強烈に焼き付けられたフィルムはないだろう。 後半、家を壊すシーンの編集、そしてラストがたまらなく素晴らしい。 人間という生き物は、なんのために生きているのか分からないが、まだまだ捨てたものじゃないと久しぶりに思った。 静岡の「ちぐさ」という店に行って、この家族に会いたくなった。 栗5つ。満点。 ポレポレ東中野にて。 |
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