2010 12,04 23:09 |
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黒澤明のデビュー作。戦時中の作品だが、戦意高揚映画ではなく、アクション映画としても人間ドラマとしても良く出来た娯楽作で、当時の人は、本当に楽しく観ただろうなあ。
僕自身、黒澤作品で最も多くの回数を観ているのがこの作品だ。確かに、この作品よりも映画的に完成度の高い黒澤作品はある。けれども、何度も観ても引き込まれる不思議なパワーがこの作品にはある。 今回上映されたのは、ロシアで発見された散逸部分の12分を加えた現存する最長版。それでもオリジナルには、7分足りない。 この映画の魅力は、とてもよく練られ完璧なまでに役者と一体となった登場人物たちだ。クレジットこそ大河内伝次郎が先に名前が出るが、主役は、完全に藤田進であり、藤田演ずる姿三四郎の朴訥で力強く、無鉄砲で強情だけど心優しい男性像には、憧れてしまう。 宿敵檜垣源之助を演じる月形龍之介の不気味な存在感もなかなかの迫力。寺の和尚役の高堂国典も本当にいい味出している。 美しい日本の町並みにも心奪われる。三四郎と小夜の出会いの印象的な場面は、横浜の浅間神社で撮影されたが、現在との変わりように驚くほどだ。 姿三四郎という男の成長物語としても見ごたえたっぷりだが、黒澤のデビュー作にして驚愕の演出には度肝が抜かれる。特に、子供たちの三四郎の歌とともに街中を流れていくカメラ、そしてそして圧巻は、ラストの決闘シーン。吹きすさぶ強風、なびく薄、生き物のように形を変え流れ行く雲の空の下、歌いながら敵を待つ姿三四郎の場面は、黒澤は自然までも演出したかのような、まるでタルコフスキーもぶったまげの美しいシーンだ。 音楽の使い方も素晴らしく、ものすごく効果的。とても戦時中の作品とは思えぬ完成度だ。 なにはさておき魅力的な藤田の姿三四郎。こんな男になりたいなあ。 ただ、女の人から観たらどうなんだろうなあ。小夜みたいな待つ身の女、現代の女性にはどのように映るんだろう。 栗5つ。 京橋・フィルムセンターにて。
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