2006 08,09 20:54 |
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並木座で初めて観た映画は、木下恵介監督の「陸軍」だったな。毎年、8月は、戦前・戦中の映画がよくかかっていて、その特集の一本だった。「陸軍」は、昭 和19年公開の戦意高揚映画にも関わらず、田中絹代が出兵していく子供を台詞の無い表情だけで見送る演技をするのだが、その母親のなんとも言えない切ない 情愛が描かれていて、そこで会場全員が号泣してしまった。僕もつられて、わんわん泣いてしまった。
並木座。もう、ここには、たくさんの思い出がある。学生時代から、ほぼ毎週のようにここに通っていたので、僕は、社会人になってから銀座の近くに引っ越した。この映画館に歩いて通うために引っ越したと言っても過言ではない。 もぎりのおばさんはとても優しくて、この映画は絶対観てよとか教えてくれた。太ったお姉さんも夏は、暑くて大変そうだなあと思いながら、いつも笑顔だった。 今、心に残っている日本映画は、ほとんどここで観ている。小津、溝口、黒澤、木下、成瀬・・・、ここには、本当の映画があった。 そんな思い出深い映画館を綴った一冊。並木座の成り立ちなど、知らないことばかりで興味深い。NAMIKIZA Weeklyは、僕が通い始めた頃には、無かったので、とても欲しくなった。貴重な映画資料だ。 こ の本にも出ているが、並木座は、古いし、汚いし、狭いし、窮屈だし、変な所に柱があるし、お世辞にも素敵な映画館とは言えない。でも、あの狭い通路を抜 け、階段を下りて、何故かオランダのキューケンホフ公園の壁紙の小さなロビーの扉を開けると、なんとも言えない空間が広がっていた。あの雰囲気、風情、今 の映画館では絶対に出すことができない。 今でも、並木座がもうなくなってしまっているなんて、とても信じられない。僕らが失ったものは、計り知れないほど大きい。 並木座の思い出を一冊で綴るのは、とても難しいと思うけど、知らなかった部分の新鮮さと、知っている部分の懐かしさで、読んでいてとても幸せな気分になれた。 銀座並木座―日本映画とともに歩んだ四十五年 ISBN:4886299628 嵩元 友子 / 鳥影社 |
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