2018 08,15 16:56 |
|||
「きけわだつみのこえ」を読んだのは学生の頃で、その当時の自分とほぼ同年齢で戦争で亡くなった若者の記録である。手紙や日記など、驚くのは20代とは思えぬしっかりとした文章と世の中を見つめる視点だ。
第二集には、当時も衝撃を受け、今も忘れられない一節がある。昭和17年に早稲田大学法学部を卒業。その二年後にフィリピンのバシー海峡で26歳で戦死した長門良知(ながとよしとも)さんの日記だ。 昭和20年4月12日 今日、読み返してみても、変わらず胸を突き刺すものすごい言葉だ。人は生まれる時期も場所も選べない。もし、自分がこの時代に生まれ、若くして戦争に駆り出されたら、このように人生を達観することはできただろうか。
|
|||
2018 07,12 21:58 |
|||
本が売れない時代、まして翻訳文学となるとなかなか大変だと思う昨今、サウザンブックスさんが取った方法は、クラウドファンディング。成立したら本をもらえるのは当然のことだが、出版パーティーに招待されるなど出資額によって様々な特典がある。
僕は、一冊を自分に、一冊をどこかの図書館に寄贈のペイ・フォワードを選んだ。 「僕を燃やす炎」、内容は、同性の同級生に好きだと告白した主人公の少年が、悲惨ないじめに合うことから始まる。日本でも一橋大学でのアウティングの悲しい事件があったが、この主人公もいじめに耐えられず自分をカッターで傷つける。追い撃ちををかけるように父親からのDV。親が理解してくれないのは辛い。と、前半はかなり読んでいて気が滅入る。しかし、後半、主人公がいじめに負けないようにと通い始める柔道教室での少年との出会いが希望の光を灯す。人を痛めつけるのも人間だが、そこから救ってくれるのも人間なのだ。 この物語は、実際に特定のモデルがいるわけではなく、多くの少年少女にヒアリングした結果から生まれたらしい。今風だなあと思ったのが、主人公が匿名で心情を吐露する先がSNSで、恋人同士になった少年二人がやり取りするのは電話でもラブレターでもなくLINEのようなチャットだということ。夜、ベッドに入ってメッセージを送る、そしてしばらく返事を待つ。その幸せなドキドキ感がなんとも懐かしく微笑ましかったな。 僕の寄贈した一冊、どこかで誰かが読んでくれているのかな。
|
|||
2013 08,10 10:43 |
|||
いきなりおぞましい殺人事件で始まる。映画のようなスピーディーな展開であっという間に読める。もともと弁護士だった作家だけに、裁判シーンはしっかりと書かれているが、文学的表現の楽しみはそれほどない。淡々と進むサスペンスだ。 舞台はベルリン。老齢の名士が殺される。加害者は黙秘を貫く、そして最後に驚愕の事実が・・・。ということなのだが、背景から容易にナチス・ドイツがらみと予想がつく。そして、その通りなのだが、一点この小説がユニークなのは、法律の扱い。えっ、ドイツにそんな法律あったの?とびっくりする。実際、ドイツ国民も知らなかった法律で、この小説が出てから、ドイツ国内でも論争が起きたそうだ。 暗殺や虐殺の場面は、ものすごく残虐。主人公の弁護士が、被害者とその娘と関係があるところが小説的に面白いところ。その関係と真実との間で揺らぐ主人公の葛藤が興味深い。 簡易な文章でさらっと読める。 |
|||
2012 03,31 16:14 |
|||
映画やドキュメンタリーで、その存在は知っているものの、どんな人物だったかはあまり知られていなエヴァ・ブラウン。ヒトラーの隠された愛人として生き、死の直前にヒトラーと結婚し、その後二人で自決した。33歳という短いながらも、ものすごい一生を送った女性だ。 彼女のことがあまりよく分かっていないのは、当時、国家と結婚したと宣言していたヒトラーは愛人の存在を隠しており、公式の場に彼女が出ることは一切無かった。彼女と接触できたのは、一部のヒトラーの取り巻きのみ。彼らも彼女がヒトラーの愛人だからということでの付き合いなので、良く思っていないが、表向きはそうは言えず、戦前の記録は好意的だが、戦後は自分の生死に関わってくるので、自己欺瞞の証言ばかり。戦前も戦後もエヴァについて、何が真実なのかが分からない。 エヴァもエヴァで、二度も自殺未遂をして、自分の存在をヒトラーに訴えている。それが愛ゆえのものなのか、寂しさゆえのものなか、時の最高権力者の伴侶になりたいという策略だったのか、これも良くわからない。ただ、敗戦前夜の戦火のベルリンへヒトラーを求めやってきて、結婚してともに自殺した事実から、ヒトラーを愛していたと考えるのが筋だろう。 ヒトラーの愛人になった時から、死を常に身近なものとしていたようだ。ヒトラーがいるから周りの者がちやほやしてくれる。それは十分に分かっていたので、ヒトラーになにかあれば、自分は生きてはいられないと感じていたようだ。まさに命がけの恋だった。そう聞くと、ドラマチックにも思えるが、市井の娘が時の権力者の愛人になるということは、富と自尊や虚栄のためのようにも思える。事実、戦中はかなり裕福な暮らしをしていた。 正直、互いに何故惹かれ合ったのかはよく分からない。二人がやりとりした手紙は、エヴァの妹に託され、どこかに埋めて隠してくれと伝えられたが、今もって発見されていない。それ意外の記録文書は、焼却されているか、嘘の証言記録ばかりだ。誰が本当のことを言い、誰が嘘を言っているのか、本当に分からない。 映像や文字記録がこれだけ残っている時代ですらこの程度だということと、当時の人の証言や記録は多分に自分の都合のいいことしか書かれていない。そうしたものだけで現代人は、歴史や歴史上の人物を解釈しているわけで、その他のさまざまな歴史上の人物もわれわれが今思い描いているのとは全く違うものかもしれないと感じた。 |
|||
2011 01,17 01:41 |
|||
たかだか100年前なのに、こんなにも変わってしまった都市って珍しいよねえ。絵に描かれた姿を見て、この街に確かにあった美しいシルエットに想いを馳せる。
明治時代、山手線の外側の新宿や渋谷、池袋は、まだまだ原っぱだったんだよねえ。それが今や東京の3大ターミナルになっており、その変化を明治の人が見たら驚くだろうなあ。 その一方で、両国橋や浅草のかつての賑わいが無くなっているのが、ちょっと寂しい感じがする。 当時の風俗のことも書かれているので、吉原の話とか、落語好きには面白いかも。緻密な絵が見ていて楽しい。
|
|||
2010 10,16 12:57 |
|
ナショナル ジオグラフィック誌に掲載された傑作ノンフィクションを10篇集めたもの。
どれも極限状態に置かれた人間の生き様、そして死が痛ましい。 タイトルになっているのは、アフガニスタン内戦の英雄マスードの渾名。タリバンの砲弾が舞うアフガニスタンで若き解放のリーダーに密着したルポは、まるで一遍の映画のようだった。マスードが暗殺されなければ、アフガニスタンの現状は、今と変わっていたかもしれない。そして、マスード暗殺の数日後に、9.11のテロがアメリカで起きる。 10篇のうち個人的に興味深かったのは、次の二編だ。 まずは、ナチス統治時代のウクライナで洞窟の暗闇の中に2年間隠れ続けたある家族の物語。ナチス関連のエピソードは、映画になったりして結構たくさん観ているが、これは知らなかった。 人が容易に入って行けない洞窟の奥の奥へ隠れ家を作り、空気穴や逃げ道を用意し、かつその過酷な環境の中でも生きるために料理をして煙を出さねばならない。 男たちは、夜な夜な洞窟の外へ出て、廃品回収などで闇市で食材を手に入れねばならない。洞窟に隠れているとはいえ、毎晩危険な街へ行かねばならないのだ。じゃあ、女性は、安全かというとなんと2年間も陽の光り浴びれないという、これも過酷なものだった。 もちろん彼らだけの力では生きて行けず、生活物資を応援してくれる人の協力があったのだが、一方でやはり密告する人もいて、洞窟の家族は何度も危機に遭う。見つかって連行されてしまった人もいた。 奇跡的に生き延びた家族のインタビューから構成されたこの実話に驚きながらも、人間の生への執着の凄まじさを感じた。 もう一つは、実際に山で遭難した人のエピソードから、人間の行動を科学的に分析したルポだ。遭難した時のパニックから人間が引き起こす奇怪な行動、「なんでそんなことするの?」と思うようなことを、極限状況に置かれた人間はしてしまうのだ。生き残るためにどう行動すべきかも述べられているが、一旦こうだと信じきった人間、こうだと信じたい気持ちが引き起こす悲劇のスパイラルに背筋がぞっとした。 |
|
2010 08,06 22:44 |
|
だいたいのことは、やっているけど、やはり上には上がいるもんだなあ。
驚いたのは、ファントムステイ(幽霊宿泊)だ。例えば、キャンペーンでハイアットに2泊すると好きなハイアットに1泊できるというのがあったとすると、世界中で一番安いハイアットを探す。それは、デンバーにあるそうなのだが、そこを予約する。そして、そこはインターネットでチェックイン、チェックアウトができるそうで、実際泊まらなくても、お金を払えば記録上泊まったことになり、ポイントが付きかつキャンペーンの対象になるという。これで一泊6000円のホテル滞在2泊で、一泊7万円のパリの豪華ホテルに泊まったという人がいるらしい。すごい。 僕も完全にマイルの奴隷だから、傍から見ていると呆れられているんだろうな。 パリに行くのに成田からニューヨーク経由へ行ったことあるし。 ニューヨークに行くのに、成田->ホノルル->ロスアンジェルス->デトロイト->ニューヨークと乗り継いで行ったしなあ。オーバーブッキングがあったら率先してボランティアして、翌日帰りとかにしてたもんなあ。 というわけで、この本、やっている人はすでにもう結構実践しているわけで、これからマイルの奴隷になる人をどこまで惹き込めるかだな。(笑) |
|
2010 07,30 15:22 |
|
前半のスタンフォード大学で実際に行われている学生への課題とその解決方法が面白い。さすが、優秀な学生たちは、思いもしないソリューションを産み出してくる。チームでのディスカッションにより、さまざまな創造性に富んだアイデアが出てくるところが興味深い。
一方、予想通りの陳腐な回答を持ってくるチームもある。されど、若い頃にこういう講義が受けられたことは、大変に価値があるものだろう。 中盤から後半の筆者の体験に基づくパートは、古くから日本にもある諺「情けは人のためならず」という感じだな。決して、新しい考えではない。ただ、至極うなづける。「世界中に知り合いは50人」だったかな?なるほどそうだよなあと共感できるエピソードも多数だ。 学生が、筆者の言葉に感銘を受けたというものもあり、その言葉は、原語での表現も併記してくれたら良かったのになと思った。 平易な文章で書かれているので、原書で読んでもいいなと思った。確かに若い頃読んだら、もっと日々の生活で、人に優しくできたかも。(笑) これから、人に優しくしみようっと。これまで冷たくしてしまった人、ごめんね。 20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義 ティナ・シーリグ (著), 高遠 裕子 (翻訳) 価格: ¥ 1,470 出版社: 阪急コミュニケーションズ (2010/3/10) ISBN-10: 4484101017 ISBN-13: 978-4484101019 |
|
2010 01,31 16:30 |
|
終演後、神保町から水道橋までにっし君ととぼとぼ歩く。途中、奥野かるたさんに寄る。江戸から明治、大正の百人一首の展示にしばし見惚れる。絵も素敵だが、文字の美しさにも驚嘆。にっし君が何かインスパイアされていたよ。
店のショーウィンドウの展示にうっとりして、店内も徘徊。色とりどりの美しいかるたに目移り。二階にギャラリーもあって、そこには数百万円からとても値がつけられない非売品の貴重な百人一首が多数展示されていた。もう完全に心を鷲づかみ。しばし、見つめて動けなくなる。絵の美しさもさることながら、まして文字の美しさよ。手書きって素晴らしい。 奥野かるた店 東京都千代田区神田神保町2-26 03-3264-8031 |
|
2009 08,05 21:24 |
|