2009 10,23 23:51 |
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田中絹代の特集中の京橋・近代フィルムセンターへ。今日は、「陸軍」を観る。並木座で何度か観ているのだけど、フィルムセンターの大画面で観られるのは嬉しい。
これは、昭和19年に陸軍の依頼により制作された戦意高揚映画である。そこかしこに、戦争賛美と天皇崇拝のシーンに当時の世相がよく現れている。前 半は、現代人が見ているとちょっと恥ずかしくて笑ってしまう台詞が多いが、後半、場面が福岡になってからは、笠智衆、東野英治郎の頑固者親父の応酬が良く 出来た喜劇になっていて笑いを誘う。 戦争で死ぬ軍人の死生観には、相容れないものがあるが、家族の団欒の風景は、温かくそして日本人が失った豊かさがある。 この映画は、戦意高揚目的で作られたが、そこかしこに反戦のメッセージが見え隠れする。当時、これが公開されたのが不思議なくらいだ。事実、監督の木下は、この映画公開後、戦争が終わるまで映画を撮れなくなったが・・・。 恐らく、当時の多くの人が抱いていた戦争に対する感情を東野英治郎演ずる男に投影させているのだろう。戦地に行った息子を心配したり、日本が負け るかもしれないなどを台詞を言わせている。実際、そうした声をあげる人がいて、それを押さえる意図があったのかもしれない。映画の中では、戦友の愛情の中 にそれらは諭されてしまう。 しかし、ラストにこの映画は、映画の持つ巨大にして崇高な力を剥き出しにする。凱旋行進を行う息子を追う田中絹代の名演と驚くほどリアリスティッ クなカメラワークに、涙がぽろぽろ溢れてくる。日本映画史上最高の演技の10分間だ。台詞を押さえ、福岡の街をラッパの音を頼りにさ迷う田中、そして当時 も多くの人の涙を誘ったであろう迫真の演技は、いつまでも胸に突き刺さって離れない。 栗5つ。映画は、力を持っている。 京橋・近代美術館フィルムセンターにて。
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2009 10,12 16:49 |
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久しぶりのジム・ジャームッシュ作品。前作「ブロークン・フラワーズ」がびっくりするくらい分かりやすい映画だったので、かえって今回の作品の方がジャームッシュらしく、懐かしい。
好き嫌いは分かれるだろうね。単調なリフレインは、なかなかに忍耐を必要とする。 つっこみどころはたくさんあるんだけど、やっぱりこの映像と音楽には、心底酔ってしまう。どちらかというとワンシーン、ワンショットが好きな僕だけど、彼の短いカットと渋い音楽をあわせた編集には、グッとくる。 そして台詞だ。字幕を見ているだけだとつまらないが、英語とスペイン語がまるで旋律のようで耳に心地よい。また、深遠な台詞はそれだけで詩のように美しい。 ジョン・ハート、ティルダ・スウィントンの演技がグッときた。また、スペインが舞台というのが不思議な雰囲気を醸し出すのに成功している。 この映画は、ピンク・フロイドの音楽のように狂おしいまでのリフレインで、繰り返される人生のテーマの中にいろんなことを考えてしまう。 想像力への旅。そんな映画だ。 大好きなビル・マーレイをアメリカ人としてしまい、誇り高く奢れるものの象徴にしてしまったところがちょっと短絡的な感じがしてしまった。もっと深遠なるもの、または決着をつけない方が個人的には良かったかな。 工藤夕貴の演技は、名優陣の中で浮いていたが、日本語の台詞「宇宙に中心も端もない」というのは好き。 シネカノン有楽町2丁目にて。 フラメンコのシーンも好き。栗4つ。
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2009 10,03 16:17 |
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見逃していたドキュメンタリーが豊洲でかかったので観にいく。
「コーラスライン」再演のためのオーディションを追ったドキュメンタリーだが、初演の時の誕生秘話をベースに、ものすごく熱い想いがこめられた素晴らしい作品になっている。 「コーラスライン」ってこんな風に生まれたとは、知らなかった。ほとばしる情熱と成功への確信は、故マイケル・ベネットの天才の成せる技だ。 何故、ダンサーがこの作品に魅了され、ここまで情熱をもってオーディションに臨むのか、劇中も出てくるが、「これは私たちの物語だから」という台詞と、まるで何かがのりうつったように演じ、踊り、歌う姿が時に涙腺を刺激する。 精神が壊れそうになるギリギリの魂のぶつかり合い。だからブロードウェイのミュージカルは、観る者を圧倒させるのだろう。 ああ、ニューヨークに行きたくなっちゃったなあ。 素晴らしいドキュメンタリー。栗4つ。 ユナイテッドシネマ豊洲スクリーン9にて。 |
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2009 10,03 12:15 |
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2009 09,27 20:31 |
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レニ・リーフェンシュタールの未見の作品をついにスクリーンで観た。戦時中この映画がもたらしたプロパガンダとしての側面は、ちょっと置いておいて、記録映画としてここまですごいものはそうはない。
1934年に行われたニュルンベルクにおけるナチス党大会の記録。大会そのものの演出は、建築家シュペアーによるものだが、何十台ものカメラ、圧倒的な陰影とキューブリックばりのシンメトリーの構図は、レニの手腕そのものだ。 ヒトラーやヘス、ゲッペルスなど有名な人だけじゃなく、軍人の日常の姿や熱狂する市井の女性や子供の表情を巧みに盛り込んだモンタージュ手法は、まさにプロパガンダ映像のお手本といった感じ。 正直、どうしてここまで熱狂と陶酔するのかは分からないが、ヒトラー政権が不況の時代に行った社会保障や福祉、アウトバーン建設による就労の確保など、他国侵略の裏側で意外と真っ当なことが行われていたせいかも・・・。 とにもかくにも、様々な角度から追ったヒトラーの演説、行進する軍人の真上からの構図、空撮、何十台ものカメラを利用した編集、シンメトリーの構図などなど、どうやって撮ったのとこれまたびっくりする映像ばかり。 人間の「個」が群衆となり、陶酔し熱狂する。それが招いた歴史、考えさせられる。 レニがどういう思いでこの映画を撮ったかは分からないが、とにかく究極までに「美」を追求したということは間違いない。 栗4つ。貴重な記録だ。 シアターN渋谷にて。 |
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2009 09,23 22:13 |
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ところどころ映像は綺麗だけど、映画としては大したことない。
反映倫、芸術の自由、そんなメッセージは伝わるけど。とにかく濡れ場だらけで、登場人物の背景や人間模様が全く描けておらず、淡々と阿部定事件を追ったという感じ。なんでああいう結末になるのか、いまいち説得力にかけるなあ。 藤竜也は、とってもいいが、松田英子は、はっきり言って気持ち悪い。こんな女には、惚れない。ただただ気味が悪い。 それにしても、芸者を前に結婚の祝言をしてその前で床いれしたり、やりまくっている前で三味線芸者を呼んだり、こんな風俗あの時代の日本にあったのだろうか。 阿部定事件は、実はその後の彼女の人生の方が面白かったりするなあ。そっちの方が興味ある。 SEX、性器、SEX、性器、SEX、性器、そのオンパレード。 栗3つ。銀座シネパトス2にて。 |
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2009 09,23 22:11 |
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大島渚の作品で初めて観たのがこの作品だ。独特の映像美と抑えた色調のカラーフィルムが強烈。また、初めて観た時は、とても怖かった。
リアルタイムで「戦場のメリークリスマス」を観た時、これがあのすごい「愛の亡霊」と同じ監督作品なのかとひどくがっかりした。それくらいこの映画は、良い。 田村高廣の幽霊は、すごく怖い。吉行和子や藤竜也の肉体美も綺麗。ああ、若かったのねえ。 武満徹の音楽がこれまた身勝手な人間の心情をかき乱す。 恋しあう男女、邪魔なやつは殺しちぇ、いつの時代も変わらんなあ。ただ、この映画は、ちょっと藤竜也役の男が身勝手過ぎて、感情移入はできないね。 川谷拓三も懐かしかった。 栗4つ。銀座シネパトス2にて。
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2009 08,29 17:10 |
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ひ、ひどい、ひどすぎる。
死ぬほど退屈だった。何度、途中で席を立とうと思ったことか。 映画のパロディー満載だけど、オリジナリティーの欠片も無く、平凡なストーリー、ステレオタイプな登場人物と設定、継ぎはぎのエピソードの脚本は、見ていて苦痛。聞いている方が恥ずかしくなる台詞と選曲センスに、もう目も当てられないおぞましさだ。 最後にものすごいどんでん返しや意表つく展開があるかなあと思いきや、何あれ? こんな原因で恐ろしいトモダチが生まれるなら、世界中がトモダチだらけになっちゃうねえ。 今年のワースト映画、決まりかな。 過去の名作映画のパクリとパロディーが満載。映画好きなんだなあというのは伝わる。 苦笑、苦笑、苦笑。栗一つ。 ユナイテッドシネマ豊洲 スクリーン10にて。 |
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2009 08,22 22:41 |
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地球や宇宙の美しい映像を期待していくと裏切られる。
NASAの、人類の50年に及ぶ宇宙への冒険の歴史のドキュメンタリー。60年代のジェミニやアポロなどのプロジェクトは、リアルタイムでは知らないけれど、スペースシャトルの時代はなじみ深い。特に二つの事故は、その寸前の映像が痛々しい。 大航海時代と同じようなんだろうか? 未知への冒険は、どんな危険があっても人を魅惑し駆り立てる。 知らないことを知りたい、その果て無き探求の物語だ。 ただ既存の映像を時系列につなぎ合わせているだけで、ドキュメンタリーとしては、なんの工夫も無いのが残念。 大画面で観たくて、わざわざ六本木まで出かけた。 栗3つ。TOHOシネマズ六本木ヒルズ スクリーン7にて。 英語版を鑑賞。 |
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2009 08,01 19:50 |
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長いとは感じなかった。イタリアの子役がすごく上手。
長時間の映画だが、並行する物語や人物を丁寧に描くには、それでも足りない印象。 この監督の映画は、何を撮ろうと結局のところ白人に虐げられた黒人という図式が嫌味なくらい入っていて、まあ気持ちは分かるけど、それが前面に出てしまうとなんか興醒め。 大好きなオメロ・アントヌッティが出ていて、どうしても「サン・ロレンツォの夜」とか初期タヴィアーニの名作を思い出してしまい、それと比較してしまうと、なんともアメリカ的なエンターテイメントにまとまってしまうラストのお涙頂戴も、これまた興醒めだ。 まあ、素直にお涙頂戴でよろしいかと。 でも、昔のタヴィアーニ兄弟の映画が見たくなったよ。「グッドモーニング・バビロン」より前のやつね。この「グッドモーニング・・・」以降は好かん。 この作品で幕を閉じるテアトルタイムズスクエアにて。 栗3つ。 テアトルタイムズスクエアのさよなら上映のラインアップは、すごいよ。 http:// |
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